第18章 Linuxでのモバイルコンピューティング

目次

18.1. ラップトップ
18.2. モバイルハードウェア
18.3. 携帯電話とPDA
18.4. 関連資料

概要

この章ではモバイルコンピューティングにLinuxを使用した様々な例について説明します。様々な分野での使用例を簡潔に紹介し、使用されているハードウェアの基本的な機能についても解説します。電源消費量を最小限に抑える実現性とともに、パフォーマンスを最大限に引き出す特別な要件とオプションに適したソフトウェアソリューションを提案します。この章の終わりでは、今回のテーマに関する最も重要な情報ソースについて説明します。

モバイルコンピューティングという言葉から連想されるのはラップトップ、PDA、携帯電話、そしてそれらとのデータ交換ではないでしょうか。この章ではラップトップやデスクトップシステムに接続可能な外付けハードディスク、フラッシュドライブ、デジタルカメラなどのモバイルハードウェアコンポーネントにまで範囲を広げて追っていきます。

18.1. ラップトップ

ラップトップのハードウェアは通常のデスクトップシステムとは異なります。これは交換可能性、占有スペース、消費電力などの基準が関係するためです。モバイルハードウェアの製造元によりPCMCIA (Personal Computer Memory Card International Association)標準が開発されました。この標準にはメモリカード、ネットワークインタフェースカード、ISDNおよびモデムカード、そして外部ハードディスクなどが含まれます。このようなハードウェアのサポートをどのようにLinuxに実装するか、構成中に考慮すべきことは何か、PCMCIAを制御するために使用可能なソフトウェアは何か、起こりうる障害をどのようにトラブルシューティングするか、などの情報は章 19. PCMCIAに記述されています。

18.1.1. 電源消費量

ラップトップの製造時、消費電力を最適化したシステムコンポーネントを組み込むことで、電源網にアクセスする必要性を極力減らし、システムを快適に使用できるようにしています。それらによる電力消費の軽減は、少なくとも、オペレーティングシステムによるものと同じほど重要です。SUSE Linuxは、ラップトップの電力消費に影響を及ぼす様々な方式をサポートしています。それらの方式の、バッテリ電源での使用時間に対する影響はそれぞれ異なります。次のリストでは電源消費量節約への貢献度の高い順に各項目を示します。

  • CPUの速度を落とす

  • 休止中にディスプレイの照明を切る

  • ディスプレイの明るさを手動で調節する

  • ホットプラグ対応の使用していないアクセサリを切断する(USB CD-ROM、外付けマウス、使用していないPCMCIAカードなど)

  • アイドル中にはハードウェアディスクをスピンダウンする

SUSE Linuxでの電源管理およびYaSTの電源管理モジュールに関する背景情報は章 21. 電源管理に記載されています。

18.1.2. 操作環境の変化の統合

モバイルコンピューティングに使用する場合、ご使用のシステムを操作環境の変化に順応させる必要があります。環境とそこに存在するクライアントに応じて、多くのサービスを再設定する必要があります。SUSE Linuxは、それらの作業をユーザに代わって行います。

図 18.1. ネットワークでのラップトップの統合

ネットワークでのラップトップの統合

スモールホームネットワークとオフィスネットワーク間でラップトップを持ち運びする場合に影響のあるサービスは次のとおりです。

[ネットワークの設定]

IPアドレスの割り振り、名前解決、インターネット接続、およびその他のネットワークへの接続が含まれます。

印刷

使用可能なプリンタの現在のデータベース、および使用可能なプリントサーバが、ネットワークに応じて表示されなければなりません。

E-Mail (電子メール)とプロキシ

印刷と同様、現在の環境に対応するサーバが表示されなければなりません。

X Window Systemの設定

ご使用のラップトップが一時的にプロジェクタまたは外付けモニタに接続されている場合、異なるディスプレイ設定が使用可能になっていなければなりません。

SUSE Linuxではラップトップを既存の操作環境に統合させる2つの方法を提供しています。これらは組み合わせが可能です。

SCPM

SCPM (システム設定プロファイル管理)では任意のシステム設定状態をプロファイルと呼ばれる一種の「「スナップショット」」として格納することができます。プロファイルは異なる状況でも作成できます。プロファイルはシステムが異なる環境(ホームネットワーク、オフィスネットワーク)で操作される場合に便利です。常にプロファイルを切り替えることができます。SCPMについての情報は章 20. システム設定プロファイル管理を参照してください。kickerアプレットであるKDEのProfile Chooserによりプロファイル間での切り替えが可能です。アプリケーションは切り替える際にrootパスワードを要求します。

SLP

サービスロケーションプロトコル(SLP)は既存のネットワークでのラップトップの接続を容易にします。SLPがなければラップトップの管理者は通常ネットワークで使用可能なサービスに関する詳細な知識が必要になります。SLPはローカルネットワーク上のすべてのクライアントに対し、使用可能な特定のタイプのサービスについてブロードキャストします。SLPをサポートするアプリケーションはSLPとは別に情報を処理し、自動的に設定することが可能です。SLPはシステムのインストールに使用することもできます。これを使用することで適切なインストールソースの検索を行う必要がなくなります。SLPについての詳細な情報は章 39. ネットワーク上のSLPサービスを参照してください。

SCPMの重要性は再現可能なシステム条件を有効にし、保持することです。SLPはネットワークに接続されたコンピュータの設定のほとんどを自動化することで設定自体を容易にしています。

18.1.3. ソフトウェアオプション

モバイルでの使用を前提として専用ソフトウェアによってカバーされる様々な特殊タスク領域があります。次に例をあげます。システムモニタリング(特にバッテリの充電)、データ同期、周辺機器との無線通信、インターネット。次のセクションでは、SUSE Linuxが各タスクに提供する最も重要なアプリケーションについて説明します。

18.1.3.1. システムモニタリング

SUSE Linuxでは2種類のKDEシステムモニタリングツールを提供しています。ラップトップに備えられている再充電可能バッテリの単純状態の表示は、kickerのアプレットKPowersaveによって処理されます。複雑なシステムモニタリングはKSysguardによって実行されます。GNOMEを使用している場合、前述の機能はGNOME ACPI (パネルアプレットとして)およびSystem Monitorによって提供されます。

KPowersave

KPowersaveはコントロールパネルで再充電可能なバッテリの状態を表示するアプレットです。アイコンは電源のタイプを表示するように設計されています。AC電源で作業する場合、小さな電源のアイコンが表示されます。バッテリで作業する場合は、アイコンがバッテリに変わります。rootパスワードの入力が要求された後、対応するメニューにより電源管理用のYaSTモジュールが開きます。これにより異なるタイプの電源でもシステムの動作を設定することができます。電源管理および対応するYaSTモジュールについての情報は章 21. 電源管理を参照してください。

KSysguard

KSysguardは重要なシステムパラメータをすべて、モニタリング環境に集める独立したアプリケーションです。KSysguardはACPI (バッテリ状態)、CPUのロード、ネットワーク、パーティショニング、メモリ使用状況などを監視します。また、すべてのシステムプロセスを監視し、表示することも可能です。また、収集した情報の表示およびフィルタリングをカスタマイズできます。様々なデータページにある異なるシステムパラメータを監視したり、ネットワーク上で別々のマシンにあるデータを同時に収集することも可能です。KSysguardはKDE環境がなくてもマシン上でデーモンとして実行できます。このプログラムについての詳細な情報は、プログラムに組み込まれたヘルプ機能かヘルプページを参照してください。

図 18.2. KSysguardでのバッテリ状況のモニタリング

KSysguardでのバッテリ状況のモニタリング

18.1.3.2. データの同期

ネットワークから切断されたモバイルマシンと、オフィスのネットワーク上にあるワークステーションの両方で作業を行う場合、すべての場合で処理したデータを同期しておくことが必要になります。これには電子メールフォルダ、ディレクトリ、個別の各ファイルなど、オフィスでの作業時と同様、オフィス外で作業する場合にも必須となるものが含まれます。両方の場合のソリューションを次に示します。

電子メールの同期

オフィスのネットワークの電子メールを格納するためにIMAPアカウントを使用します。これで電子メールはMozilla Thunderbird Mail、Evolution、またはスタートアップで説明されているKMailなどのような、切断されたIMAP対応の電子メールクライアントからアクセスできるようになります。送信メッセージで常に同じフォルダを使用するには、電子メールクライアントでの設定が必要になります。また、この機能により、同期プロセスが完了した時点でステータス情報とともにすべてのメッセージが使用可能になります。未送信メールについての信頼できるフィードバックを受信するためには、システム全体で使用するMTA postfixまたはsendmailの代わりに、メッセージ送信用のメールクライアントに実装されたSMTPサーバーを使用します。

ファイルとディレクトリの同期

ラップトップとワークステーション間のデータの同期に対応するユーティリティが複数あります。詳細については、章 47. ファイルの同期を参照してください。

18.1.3.3. 無線通信

ラップトップはケーブルを使用して自宅やオフィスのネットワークに接続するのと同様に、他のコンピュータ、周辺機器、携帯電話、PDAなどに無線接続することもできます。Linuxは3種類のタイプの無線通信をサポートします。

WLAN

これらの無線テクノロジの中では最大規模で、特にWLANは規模が大きく、ときに物理的に離れているネットワークでの運用に適している唯一のテクノロジと言えます。1台のマシンは独立した無線ネットワークやインターネットを介して互いに接続することができます。アクセスポイントと呼ばれるデバイスがWLAN対応デバイスの基地局として機能し、インターネットへの中継点としての役目を果たします。モバイルユーザは、場所や、どのアクセスポイントが最適な接続を提供するかによって、様々なアクセスポイントを切り替えることができます。WLANユーザは携帯電話網と同様の、特定のアクセス場所にとらわれる必要のない大規模ネットワークを使用できます。WLANについての詳細は項22.1. 「無線LAN」を参照してください。

Bluetooth

Bluetoothはすべての無線テクノロジに対するブロードキャストアプリケーション周波数を使用します。BluetoothはIrDAのように、コンピュータ(ラップトップ)およびPDAまたは携帯電話間で通信するために使用できます。また視界内に存在する別のコンピュータと接続するために使用することもできます。Bluetoothはまたキーボードやマウスなど無線システムコンポーネントとの接続にも用いられます。ただし、このテクノロジはリモートシステムをネットワークに接続するほどには至っていません。壁のような物理的な障害物をはさんで行う通信にはWLANテクノロジが適しています。bluetooth、専用アプリケーション、および設定についての詳細は項22.2. 「Bluetooth」を参照してください。

IrDA

IrDAは狭い範囲での無線テクノロジです。通信を行う両者は相手の見える位置にいなくてはなりません。壁のような障害物をはさむことはできません。IrDAで利用できるアプリケーションはラップトップと携帯電話間でファイルの転送を行うアプリケーションです。ラップトップから携帯電話までの距離が短い場合はIrDAを使用できます。ファイル受信者への長距離におよぶファイルの転送はモバイルネットワークが送信します。IrDAのもう1つのアプリケーションは、オフィスでの印刷ジョブを無線転送するアプリケーションです。IrDAの詳細情報については、項22.3. 「赤外線データ通信」を参照してください。

18.1.4. データのセキュリティ

無認証のアクセスに対し、複数の方法でラップトップ上のデータを保護するのが理想的です。実行可能なセキュリティ対策は次の領域になります。

盗難からの保護

常にシステムを物理的な盗難から守ることを心がけます。チェーンなどのような様々な防犯ツールが小売店で販売されています。

システム上のデータの保護

重要なデータは転送時のみでなく、ハードディスク上に存在する時点でも暗号化するべきです。これは盗難時の安全性確保にも有効な手段です。SUSE Linuxでの暗号化パーティンションの作成については項23.3. 「パーティションとファイルの暗号化」に記載されています。

[Important]データのセキュリティとディスクへのサスペンド

暗号化パーティションは、ディスクへのサスペンドのイベントの際にもアンマウントされません。それで、これらのパーティション上のデータは、ハードウェアが盗まれた場合、ハードディスクのレジュームを行うことで、誰にでも入手できるようになります。

ネットワークセキュリティ

データの転送はどのような状況下でも、必ず保護されていなくてはなりません。Linuxおよびネットワーク上での一般的なセキュリティ問題については項23.4. 「セキュリティと機密性」を参照してください。無線ネットワークについてのセキュリティ対策は章 22. 無線通信に記載されています。